過去の楓舎小屋便り

2018/3/21

世界に必要な思想

1803snow from the roof

 春分です。すっかり日差しが強くなって、常になく雪の多かったこの冬も終わりです。倉庫の屋根に積もった雪がなだれて突き刺さったまま融けるのを待っています。じりじり照らされて融けているんだなと思うと、ああ春が来るなあと訳もなくうきうきしています。一冬冬眠のようにこもっていた身には、土の中から出る虫の気持ちになりそうです。

 1月21日に評論家・経済学者の西部邁が亡くなりました。「資本主義は、何もかもを商品にして、費用対効果に還元する。そんな下品な世の中は住むに値しない」と自死したらしい。私は熱心な西部主義者ではありません。しかし学生時代から突出した思想家との評判は知っていました。残念ながら私自身を形作るほどの影響は受けていませんが、ずっと気になる人ではありました。彼のまとまったものを読んだのは、10年ほど前に「反米という作法」(小学館)が初めてでした。小林よしのりとの共著ですが、私にはその世界が離れすぎているように感じ、あるいは私の想像を遥かに超えていてほぼ理解できないのでした。その後新聞、雑誌に乗る彼の短い文章を気にして読むうち、うっすらとその世界の断片が姿を現してくるようでした。そして徐々に私のよりどころとなってきたのでした。

 年とともに私は自分の能力の低さを認めるようになりました。若いときの何の根拠もない自信過剰から自由になったのは、娘が哲学を学び始め、私には理解不能な世界を持ち始めた頃ではないかと思います。私が若い頃に親しかった哲学の潮流から、既に次の世代へと移って、しかも若い学者が群れるように輩出していることに驚きと喜びを感じるとともに、私自身の能力ではついてゆけない世界が広がっていることも認めざるを得ないのでした。西部邁は私より数年先に生まれた人です。しかし彼が持ち得た世界はもちろん私など及ぶものではなく、論理にごまかしのない「保守」論客として知られていました。その鋭さが多くの人の好みを二つに分けたのでしょう。私は直接会ったことはありませんが、もし会って口をきいたら即座に「嫌い」になる方の人間です。それでも彼が繰り広げる精緻な論理は私の好みです。 

 もうひとり、スティーブン・ホーキング博士もこの頃亡くなりました。もう25年も前、娘の担任だった石山先生に初めてこの名前を教えられたのです。私が高校生の頃に少しかじった「地学」とは全く別の、それより遥かに現実的かつ生き生きした「宇宙」を語っていたのがホーキング博士でした。自分の持っている宇宙がただの言葉にすぎず、それこそコペルニクス的な衝撃を与えられたのです。不自由な体でありながら繰り広げる世界は、いつも私にとっては夢と現実の混ざった昂揚を与えてくれるものでした。先にも触れたように、私には理論的に理解する能力が低いですから、ただ想像するばかりなのですが、その種を与えてもらったことだけで十分豊かな時間を過ごすことができるようになったのでした。

 私の中の大きな存在が二人もいなくなったことは、そのぶん自分が無表情になっていくような気がします。

  

2018/2/4

日本の惨状

2018年1月の雪

 新しい年が始まって既に二月に入ってしまいました。年末年始からこれまで、別のことに没頭していてこのページの更新に手が回りませんでした。精神的にやや疲れてしまい、久しぶりに更新しています。

 新年になってから偶然大変つらい本を読みました。「知ってはいけないー隠された日本支配の構造/矢部宏治(講談社現代新書)」です。何十年も前から薄々気づいてはいましたが、完全な証拠とともに目の前に出されたような気がします。つまり、日本の占領は軍事的には1952年の講和条約以降も続いているということです。白井聡の「永続敗戦論」にも同様のことが書かれているのですが、理解力が足りずそこまでたどり着けていませんでした。今回偶然買った「知ってはいけない」は、なぜ米軍が空域を含め日本全土を演習場のごとく使えるのか。米軍あるいは米軍人が殺人を犯しても事故を起こしても、なぜ日本の警察は手出しができないのか。この治外法権の根拠は何か。日本は政治、経済的には確かに独立したが、アメリカは軍事的には占領状態を続けるために、吉田茂以来の歴代政権との間で無数の密約をかわしてきた、ということです。

 例えば、1960年以来10年ごとに改定されている「日米安保条約」。これの裏協定として「地位協定」がありますが、これこそ密約の固まりだということなんですね。そして日本の国内法にもそれを補完する形の条文があるのです。例えば航空法です。その中の「航空特例法」に、「米軍機および国連軍機には航空法第6章の規定は適用しない」ことになっているそうです。航空法第6章とは飛行機の安全な運航について定めています。これが米軍機には適用されないのです!米軍機は日本の上空どれほど危険な飛行をしてもいいということです。野放しなんです。「安全」という点で考えれば、誰も取り締まれない巨大な暴力団をやりたい放題やらせている、しかも彼らは世界一の軍隊だとなれば、これは「安全」を求める方が愚かだということになります。

 1952年に独立したことになっても、それは見せかけで実態は占領が続いていることです。どうしてこんな屈辱を日本の政治家は受け入れてきたのでしょうね。そして今もさらにそれに輪をかけているのです。安倍晋三の姿を見ていると、また歴代のエリート官僚の引き継ぎを知ってしまうと、植民地エリートの悲しい買弁ぶりに胸が痛みます。

 いやいや、いけない、いけない、そんなことは「革命後」に言うことでした。1945年9月に正式に敗戦を認め無条件降伏して以来まるまる72年余り、占領状態が続いています。表向きは「法治国家」を標榜しても裏の「密約」に支配されているこの不平等を、なぜ日本の政治は放置し続けるのか。これが「民主主義」というなら、そんなものくそつぼに捨ててやる。明治時代でさえ各種の不平等条約を次々正常なものへ直していったというのに、太平洋戦争敗戦後は72年間も改正できないのはどうしてか。右も左もなぜそのことに目をつぶってきたのか。政治家、官僚の買弁に日本という国家も国民も利用されているだけであることを、国民も今こそ認識しなければなりません。そういう買弁を養うための税金は払いたくないですね。私は少なくとも野党議員にだけはこのことを知らせ考えを改めさせたい、そんなことを思っています。

 

back number

2017年
1月3月5月6月8月9月11月
2016
1月2月4月5月6月7月8月9月11月12月
2015
2月5月6月8月11月12月
2014
1月3月4月5月6月8月12月
2013年
2月4月5月7月8月11月12月
2012年
3月4月6月8月9月11月12月
2011年
1月2月3月5月7月8月10月12月
2010年
1月2月4月6月8月
2009年
1月3月5月7月9月11月12月
2008年
1月3月5月7月8月9月11月
2007年
1月3月4月6月7月8月10月11月12月
2006年
1月2月3月4月5月7月8月10月11月12月
2005年
1月3月6月7月9月10月11月
2004年
1月2月3月4月6月7月8月9月10月11月12月
2003年
2月6月7月8月12月
2002年
1月3月4月6月7月8月9月10月11月

>> 楓舎小屋便りへ戻る